レーザー新世代研究センター 白川研究室
新レーザー材料探索

 フェムト秒レーザーの短パルス化、高出力化のためには、広い利得スペクトルを持つレーザー材料が必要です。さらに、光への変換効率が高いこと、利得が大きいこと、熱伝導率が大きいこと、機械強度が強く壊れにくいことなど、たくさんのパラメターがありますが、なかなか全てに秀でた材料はありません。新材料を広くあまねく探索し、それぞれ正当に評価し位置づけること、その個性を生かした適切なレーザー設計が必要です。そのような基礎的な研究に意欲的に取り組んでいます。
 セラミック技術により物質場を高度に制御した、新しい無秩序結晶新材料を研究しています。図1の{YGd2}[Sc2](Al2Ga)O12はYSAGとGSAGの混合体で、ガーネットの無秩序結晶です。その不均一広がりのため、Ybを添加した場合、YAGの1.5倍の利得幅を持ちます。またYAGと同様の良好な熱特性・機械特性を持つと期待されています。また図2のBa(Zr,Mg,Ta)O3はペロブスカイト構造を持った無秩序結晶で、希土類イオンの置換サイトを制御することで、スペクトル形状の人為的制御が可能です。ネオジミウム(Nd)を添加した場合、YAGの50倍の利得幅を示しました。それぞれ初めてのレーザー発振、モード同期発振に成功しています。
 新しい広帯域材料として、図3のオケルマナイト(Ca2MgSi2O7)結晶にも注目しています。左図の環状構造と中央のCaのサイズ不一致によりCaサイトの位置・配位数に変調が発生するため、Caを希土類イオンで置換すると結晶場の空間的変調のために利得スペクトルが広がるのです。NdとNaを共添加したオケルマナイトではスペクトル幅は7.2nmに広がりました。この材料の初めてのレーザー発振を実証しただけでなく、その構造相転移により出力特性に特異な振る舞いが見られ、大変興味深い材料であることを明らかにしています。

図1.{YGd2}[Sc2](Al2Ga)O12セラミックの結晶構造(左)とYb添加時の発光スペクトル(右)。Yb:YAGに比べ利得幅が1.5倍に増大。【試料提供:神島化学工業(株)】

図2.Ba(Zr,Mg,Ta)O3セラミックの結晶構造(左)とNd添加時の誘導放出断面積スペクトル(右)。組成調整によりスペクトルの人為制御が可能。【試料提供:(株)村田製作所】

図3.Ca2MgSi2O7単結晶の構造(左)とNd添加時の発光スペクトル(右)。【試料提供:ケルン大学】



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