レーザー新世代研究センター 白川研究室
位相同期マルチコアファイバーレーザー

 高品質な回折限界光を生み出すことのできるシングルモードファイバーのコア径は、数〜数10μm程度です。それでもファイバーの優れた冷却特性と光強度耐性により、数kWもの高平均出力光を伝搬・発生できます。しかし常に誘導ラマン散乱などの非線形光学効果が上限を与え、更にパルスレーザー動作の場合は破壊も簡単に起きます。コア径を大きくして限界を向上するのですが、そのようなファイバーは曲げに弱くなり、伝搬が不安定になります。さらに非線形屈折率による自己収束効果が絶対的な材料限界パワー(約5MW)を与え、コア径をいくら拡大してもこれを超えることができません。パルスレーザーではピークパワーMWでは応用はごく限られ、ファイバーレーザーは固体レーザーに遠く及ばないのです。
 
 私たちは同一ファイバー内に複数のコアを施したマルチコアファイバー(図1)による複数レーザー光のコヒーレントビーム結合の研究に取り組んでいます。ファイバーの非線形限界、破壊限界をコア数でスケーリングして、ファイバーレーザーの高ピークパワー化・高エネルギー化を目指しています。
 複数レーザーの輝度を加算するためには、各電界を同位相にしなければなりません。これがコヒーレントビーム結合の最大の難関です。マルチコアファイバーの場合、電界が同位相で伝搬するin-phaseモードを選択励振させることが必要です。制御性に優れコアの均質性が高く、またシングルモードで大口径化できるフォトニック結晶ファイバー技術を用いて、Yb添加マルチコアフォトニック結晶ファイバーを作製しています。そのファイバー端の空孔溶融消滅(エンドシールによる全ファイバー位相同期法(図2)を見いだして、高効率位相同期レーザー発振を実証しました(図3)。全ファイバーで堅牢、フィルファクターの向上による高ビーム品質化など、有用性が極めて高い方法です。
 上記手法を含め、さまざまな視点から位相同期法を探索し、スーパーモードの選択的な励振,モード混合抑制のための最適なコア配置・フォトニック結晶構造を検討し、コア数・コア径スケーリングの限界を追求しています。一般にレーザー物理学において、複数レーザーのコヒーレントな出力結合は最も重要な課題のひとつです。導波路レーザーであるファイバーレーザーの高ビーム品質、等価出力特性は、ビーム結合・輝度重畳の研究に最適であると言えます。

図1.(左)Yb添加19コアステップインデックス型ファイバー、(右)Yb添加6コアフォトニック結晶ファイバーのそれぞれの(上)顕微鏡写真と、有限要素法で計算したin-phaseモードの(中)近視野像および(下)遠視野像。

図2.マルチコアフォトニック結晶ファイバーのエンドシール内自己イメージングによるin-phaseモード選択

図3.高効率位相同期マルチコアフォトニック結晶ファイバーレーザー



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