電気通信大学レーザー新世代研究センター

中川賢一研究室

Rydberg原子を用いた量子シミュレーターの開発

量子シミュレーターとは、人工的に実現した量子多体系を用いて計算機シミュレーションでは難しい量子多体系の振る舞いを模倣して、その特異な物理的な性質を調べようというもので、量子計算機の一種です。

当研究室では、レーザー光を用いて複数の冷却Rb原子を真空中に1個ずつ並べて相互作用するスピン系の振る舞いを模倣する量子シミュレーターを実現しています(図1)。原子にレーザー光を照射して、主量子数が50以上のリュードベリ(Rydberg)状態に励起することにより、離れた原子間に大きな相互作用を作り出すことができ、隣り合うスピン間に相互作用があるイジング型スピン系の量子シミュレーションが可能になります。

現在までのところ、10個以下の原子を用いて量子シミュレーションを行い、量子力学的な相関がある量子多体系の振る舞いを再現しています。さらに原子の数を増やしてより複雑な量子スピン系のシミュレーションを実現可能にするため、実験装置の改良を行っています。その一つは、原子をリュードベリ状態に励起するための周波数安定化レーザー光源の開発で、これによって量子多体系の長いコヒーレンス時間が得られ、10個以上の多くの原子からなる複雑な量子多体系の振る舞いを精密に調べることが可能になることが期待されます。

図1:Rydberg状態の冷却Rb原子を用いた量子シミュレーター