向山研究室 電気通信大学 レーザー新世代研究センター
 

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研究内容

 通常、化学反応をさせる際に温度を上げれば反応速度があげられることを我々は経験的に知っています。我々が食べ物を冷蔵庫に保管するのは、温度を下げれば化学反応が起こりにくくなるという逆の性質を利用しているわけです。「温度を上げると反応速度が上がる」という法則はアレニウス則と呼ばれ、系の温度と活性化エネルギーの比較から反応則だが決まるという状況において成り立ちますが、非常に低い温度領域ではこの法則は成り立ちません。それは非常に極低温の条件下では粒子の波動性が利きはじめるという事情によるものです。
 粒子の波動性を目の当たりにすることができる現象の一つの例としてボース凝縮という現象が知られています。ボース凝縮は液体ヘリウム系における超流動や電子系の超伝導として知られていますが、我々はレーザー冷却という手法を原子気体に適用することで極低温の状態(1マイクロケルビン以下!)を実現し、実際にボース凝縮(フェルミ粒子であればフェルミ縮退)を観測しています。このマイクロケルビンという温度は日常生活から見ればほぼ絶対零度に近い温度であり、この研究は絶対零度における物質の振る舞いを知る有効な手段でもあります。私たちの研究室では、この冷却原子の量子凝縮系が低温物理学や量子物性物理学で長年議論されている量子多体系の物理を展開する大きなフィールドの一つになると考え、様々な多体物理問題の解明を可能にする実験系の構築を目指して日々研究を行っています。


現在私たちの研究室では
 (1)レーザー冷却された原子気体を用いた高温超伝導のメカニズムの解明

 (2)レーザー冷却されたイオンと中性原子の間に起こる極低温化学反応の研究

という二つのテーマについて研究を行っています。




(1)高温超伝導メカニズム解明グループ

超伝導とは低温において金属の電気抵抗がゼロになる有名な現象です。超伝導現象が発現するには2つの電子が対を形成することが必要となりますが,この対の作り方の対称性によってさまざまな超伝導状態が存在してます。私たちは超伝導現象の中でもp波という特殊な対称性を持った超伝導状態を,レーザー光によって極低温にまで冷却された原子気体を用いて研究し,その超伝導現象のミクロな発現メカニズムを解明しようとしています。冷却原子気体のように何にも覆い隠されずにその挙動が直に目で見ることができる系では,超伝導物質を用いた研究では得にくい相補的な情報が引き出せるのではないかと期待して研究を行っています。





(2)極低温化学反応解明グループ


レーザー冷却という技術は中性原子だけでなく,電荷を持ったイオンも冷却することができます。私たちは中性原子とイオンの両方を同一の真空チャンバー内に生成し,原子をイオンの捕獲されている位置に輸送すること原子とイオンを混合するという実験を行っています。私たちは両者を混合することで電荷移動や分子生成といった現象を観測することに成功しています。これは化学反応の素過程であり,極低温における化学反応というものの解明につながります。低温の環境における化学反応は星間分子の生成メカニズムなどとも関連しており,物理,化学の両方の視点から見て重要な研究テーマです。





実験室全体はこんな感じです。